last updated 1997/07/13
第59話(全130話)
マリイアの童話
8 マリイアの童話
テオにすむ神さまは、ちょっとキウイに似ています。果物のほうではなく、鳥のほうです。
知っていますか? ニュージーランドに住む、ズングリムックリの鳥。もう空を飛ぶことは
出来なくなってしまった羽根をちいさく折り畳んで、森の中をチョコチヨコと歩いている、あ
の鳥に、その神さまはとてもよく似ています。
目はどこまでも穏やかで、嘴を思わせる口元にはいつでも暖かな笑みが浮かんでいます。
神さまの子供の、そのまた子供、つまりは子孫なんだとテオの人たちは思っていました。そ
れはそうした限りなくやさしい外見のせいもありますが、やっぱり彼らには特別の力があった
からなんです。
どんな力かって?
みなさんは神さまっていったいどんな力を持っていると思いますか?
奇蹟を起こす力
すべてを見通す力
傷や病いを癒す力
願いを叶える力
あるいは
良い行いとそうではない行いを裁く力
もしかしたら、そういう力が神さまの力だと、みなさんは思うかもしれませんね。
けれど
アーバムというキウイみたいな種族の持っている力は、そういう力ではありませんでした。
もっと、本当に神さまみたいな力を彼らは持っているんです。
それは
問いかけに答える力
なんです。
そう、アーバムは質問をすれば、必ずたったひとつの答えを導き出してくれるんです。
太古からの星の歴史をすべて覚えていて、その図書館よりも豊富な知識で、質問の答えを教
えてくれるんです。
けれど、もしあなたがアーバムに尋ねたいことがあったなら、あなたはとても苦労してアー
バムの村まで行かなければなりません。
そこは高い高い山のてっぺんにありました。本当に天国みたいに空さえ見下ろす場所にある
んです。村といってももうアーバムはあまりたくさん生きてはいませんから、狼だったらひと
息で吹き飛ばしてしまいそうな、藁で作った小屋が四つか五つポツンと立っているだけの場所
です。小屋の他には、もう悠久の彼方から決して水が枯れたことのない井戸があります。それ
と、一年中、果実を実らせ続けるジンニャという木が一本だけ生えています。
それだけです。
宮殿もなければ、緑豊かな楽園もありません。天国だなんて、とても思えない質素な、どち
らかと言えば貧しい感じの鄙びた村です。
小屋の中で炊いている火が立ち上らせる煙が、淋しげに藁葺き屋根の煙突から立ち上ってい
ます。ご飯を作っているのでも、部屋を暖めているのでもなく、アーバムたちは日がな一日、
火を炊いて、その火の形で世界が安定しているかどうかを調べているのです。そしてもしどこ
かで何かのバランスが崩れているとわかると、井戸の水を汲んで、火に水をかけるのです。火
は消え、そして新たな火がもう一度暖炉の中に立ち上ります。新しい火がバランスの取れた美
しい火であることを確認すると、アーバムは安心したようにホッとちいさな吐息を漏らします
。火の形で世界のバランスが保たれていることを調べ、もし火が乱れていたら、水を使って世
界を浄化する。それがアーバムたちの仕事であり、儀式でした。
火と水。
カとミ。
アーバムはそういう儀式を年老いて衰弱して消えてしまうまで続けるからこそ、カミの末裔
と人々に思われているのですね。
いま、アーバムたちは少しだけ動揺しているようでした。何日も前から仲間で集まってヒソ
ヒソと情報を交換し合っています。いつもは穏やかでのんびりとしたアーバムたちなのに、い
ま彼らは何だかひどくそわそわしているように見えました。
何故でしょう?
火です。
火の形がもう何日も前からひどく乱れてしまっているのです。
その火の形のあまりの乱れように、アーバムたちでさえ、世界のどこがバランスを崩しはじ
めているのかわからないのでした。それがわからなければ、井戸の水を使って浄化することが
できません。だから、アーバムたちは動揺しているのです。
火は、世界のどこか一部ではなく、まるで世界全体が、この星全体が、大きくゆっくりとバ
ランスを崩しはじめていると告げているように見えました。
アーバムたちは、星の運命に思いを馳せ、そして深いタメ息をついていました。
どんな質問にも答える力を持つアーバムたちです。
けれど彼らは、質問をされなければ、答えを導きだすことができません。
答え、というのは、質問があってはじめて意味を持つものだからです。
いま
アーバムたちは誰か質問を携えて現れてくれないだろうとか思っていました。
火の乱れる原因。その答えは無限にあります。
正しい質問が発せられて、はじめて無限の中からたったひとつ
真実
という名の答えが導かれるのです。
質問。
それを携えてやってくる来訪者を、
アーバムは待ち望んでいるのでした・・。
(つづく)
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